御喜美江＆大田智美

ファンタスティック・アコーディオン2024

2019年９月ルンデ主催でソロ・コンサートをさせていただいた時、聴きに来てくださいましたね。白いジャケットの鈴木さんと赤い舞台衣装の私、あのとき楽屋で撮ったツーショット写真は、大切に本棚に飾ってあります。

私の音楽人生のほとんどの歳月を、共に歩いてくださった詢さんと峰江さんとの思い出はあまりにも多く、あまりにも密が濃く、どこからお話したらよいのか、困ってしまいます。スタジオ・ルンデで演奏しなかった自分のコンサート・レパートリーなどなく、バロックから現代まで、さらにどんな一般受けしない作品でも、風変わりな編成でも、スタジオ・ルンデなら演奏許可が即おりて、毎年の名古屋スタジオ・ルンデにおけるコンサートは私にとってかけがえのない「勉強と研究と実験と経験の場」でありました。贅沢この上ない恵まれた環境を、詢さんはいつも演奏家に提供してくれました。そして毎回コンサート後はロビーにおいて、ご家族、友人、知人、そしてルンデ・ファンたちとのグループ写真撮影。これがまたとても楽しくて、参加者全員の満面笑顔は忘れられません。 それにしても、駅の送り迎えから録音、録画、プログラム作成（当日でも曲目変更が可能だった世界で唯一のホール！）そして接待、全てをご自分が率先して行っている詢さんは、誰もが憧れるエネルギッシュで素敵な存在でありました。コンサートの緊張から解放されたあとのお食事会も最高でした。現在世界中で活躍している多くの邦人演奏家たちは、詢さん＆スタジオ・ルンデをたいへん尊敬していましたが、それ以上にご夫婦に甘えていたようにも思えます。

フィンランドのオウルンサロ音楽祭に、ひょっこり峰江さんと現れた時はビックリ仰天しました。舘野泉氏が音楽監督をなさっていたこのフェスティバルの「アーティスト・オブ・イヤー」に自分が選ばれたことを、お食事の席か何かで自慢げに話した私ですが、その時は何の反応もなく「これはサプライズにしよう！」とご夫婦で決めたそうです。なんという深い愛情をこのご夫妻はお持ちだったのしょうか。また浜離宮朝日ホールにおける「御喜美江アコーディオン・ワークス」にも、前触れなく、ということは要するに招待券は絶対にNG、必ずチケットを自分たちで買って、聴きにいらしてくださいました。誰よりもお世話になっている鈴木ご夫妻なら、招待券など何枚でもお送りしましたのに、詢さんの音楽に対する真摯な姿、何よりも演奏家を育てる彼の哲学には、毎回深く胸を打たれました。

なお、昨日のフェイスブック個人サイトに「この一年のあいだに私を育ててくれた恩人たちが次々と天国行ってしまいました」という文章を投稿したのですが、まさか今朝、村林さんより鈴木詢さんの訃報を知るとは思ってもいませんでした。小澤征爾さんが迷子にならないようにと、ご一緒なさったのでしょうか。それは本当に悲しいお知らせでした。

多くの演奏家を育て、様々な音楽を人々の心に届け、芸術も日常生活の一部となるよう、その努力を惜しまなかった詢さん。そしてスタジオ・ルンデが閉館した後にも、村林基彦さんという素晴らしい後継者を残し、私達は新しく誕生したHalle Runde の美しい空間に、さらなる夢と希望を託すことができます。演奏者と音楽作品とホールが一体となることこそ、音楽が生き続ける道であることを私は学びました。

ほんとうに、ほんとうにありがとうございました！ はるかドイツより、心からご冥福をお祈りいたします。